臨死体験をした人は「暗いトンネルを歩き、誰かと会った」と、死後の世界を確信したかのように話す。しかしなぜ、多くの臨死体験者が同じような情景を話すのだろうか。
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私たちが死ぬとき、私たちの精神と身体は分離すると考えられている。魂も死後の世界も科学的に証明できないので「死後の世界がある」とはいえないのに、なぜ多くの人が死後の世界を信じているのだろうか?
目次
死後の世界
アメリカの心理学者レイモンド・ムーディの調査によると、臨死体験のパターンは9つに分けられるという。
- 死の宣告を聞く
- 安らぎと満ち足りた感覚を味わう
- 肉体の外に抜け出すような体験をする
- 暗いトンネルを通る感覚がある
- 天に昇るような感覚を味わう
- 死別した親類や知人と出会う
- 神のような存在と遭遇する
- 生涯を回想する
- 生と死のどちらに行くかを決断する
まとめると、生死の境にいる間は安らぎに満ちており、暗いトンネルを進んで抜けると、お花畑で故人に出会うというのだ。
Dr. Raymond Moody: The Secrets of the Afterlife | Mysterious Ways | Guideposts
日本人だとお花畑ではなく三途の川を渡りそうになったという人もいるだろうし、多くのインド人はヒンドゥー教の死者王ヤムラージに出会ったといい、アメリカ人はしばしばイエスに会ったと主張する。
しかしなぜ、宗教や国によって、臨死体験の内容が違うのか?
実は、人間が死にそうになったときに見る光景は科学的に説明できるのである。
考えられる共通の理由は「臨死体験は脳に影響される」ということである。
臨死体験の種類
神経科学者のOlaf BlankeとSebastian Dieguezは、臨死体験を2種類に分類している。
タイプ1は、脳の左半球に関連付けられており、飛行感覚の変化と飛行の感覚が特徴である。
タイプ2は、右半球が関与しており、スピリットを見たりコミュニケーションしたり、声、音、音楽を聞いたりする。
さまざまなタイプの臨死体験が存在する理由は不明だが、脳領域間の異なる相互作用がこれらの異なる体験を生み出していると言及している。
側頭葉はまた、臨死体験において重要な役割を果たす。側頭葉は感覚情報と記憶の処理に関与しているため、これらの異常な活動は奇妙な感覚と知覚を生み出す可能性がある。
臨死体験の最も一般的な説として「脳が死にかけている」という仮説がある。この理論は、臨死体験は、細胞が死に始めるときの脳内の活動によって引き起こされる幻覚であることを示す。
死後に見る「トンネル」の正体
心臓停止後も脳(視覚)は30秒ほど活動している
心停止中に心臓の鼓動が停止すると、通常は20秒以内に意識不明となる。機能に必要な酸素と糖が不足すると、脳は呼吸を含む臓器機能を維持するために必要な電気信号を伝達できなくなる。
ミシガン大学で研究に打ち込む神経生理学者のジモ・ボルジギン博士がネズミを使った脳の実験を行った。(ジモ・ボルジギン博士は日本の仙台にある東北大学で物理学の学士号と生物物理学の修士号を取得した。)
その実験によって、なんと心臓の停止から30秒にわたって脳が活動を続けることが分かった。
これまでは心臓が停止すると同時に脳が停止すると考えれれていたが、実は脳は心臓停止後も活動を続けていた。つまり、心臓が停止しても、視覚や記憶の認識は稼働しているのである。
それでは心臓停止後に、脳はどのような状態になっているのだろうか?死後の世界に行っているのだろうか?
トンネルの正体はブラックアウトだった
世界中で「真っ暗なトンネルを歩いた」という証言をする臨死体験者がいる。真っ暗なトンネルとは、死後の世界へと続く道なのだろうか?
その問いの答えと思えるものが言及されている。
アメリカ海軍に20年勤務した航空科学を教えるティモシー・セスタック氏は、重力に関する研究に携わっていた。
彼の話によると重力に耐えるための訓練中に「Gロック(G-LOC)」という血液が下半身に停滞し脳への血流が減る低酸素の状態になることがあるという。これはボルジギン博士のネズミの実験とよく似た状態である。
Gロックでは グレーアウトの視覚症状に続いてブラックアウトが起こる。高Gになると、パイロットの血圧が変化し、脳への酸素の流れが急速に減少する。これは、パイロットの体外の圧力が、人間が通常慣れている圧力よりもはるかに大きいために起こる。
Gロックになった兵士達の多くが「意識を喪失するときは、視覚の端からだんだん暗くなるブラックアウトが起こる。そしてトンネルが見えて、その先に白い光が見える」という、臨死体験に似た経験をするそうだ。
これらのことから、人間は心臓停止後、低酸素状態のときと同じような状態になり、ブラックアウトすることによってトンネルのような幻覚をみるのである。
ボルジギン博士は「昏睡状態でも視覚の認識は働いていて、過去の思い出や人間が見える。死後の世界など存在しない」と話している。
脳内現象説
マンチェスター・メトロポリタン大学応用認知心理学のニール氏によると、死に直面した人や、激しい肉体的または感情的な痛みの状況で発生するが、心臓発作や外傷性脳損傷の後、または瞑想や失神(血圧低下による意識喪失)後にも発生する可能性があるという。
脳内現象説とは、臨死体験は脳の幻覚がもたらすとする理論である。幻覚はエンドルフィンという脳内麻薬によって引き起こされる。このエンドルフィンが死の間際になると脳中に大量に分泌されるので、至福感に包まれ安らぎ幻覚を見るというのだ。
一部の研究者は、ストレスの多い出来事の間に放出されたエンドルフィンが痛みを軽減し、快感が増すことにより、臨死体験のようなものを生み出す可能性があると主張している。
同様に、ケタミンなどの麻酔薬は、幽体離脱などの臨死体験の特性を疑似体験できるという。ケタミンは日本では2005年に麻薬指定されている。
二酸化炭素の血中濃度が高まることにより引き起こされる説
瀕死の状況に陥ることで血液中の二酸化炭素濃度が高まり、それが脳に作用し幻覚を引き起こすという説もある。
この説は2010年にスロベニアで実験が行われている。研究者グループが瀕死の患者の血中酸素と二酸化炭素の濃度の変化を調べたところ、臨死体験をした患者が他の患者と比べて血中の二酸化炭素の濃度が明らかに高かったという。
血中の二酸化炭素濃度が高まると、脳の抑制機能が失われることが原因ではないかとの見解が示されているが、実証はされていない。
幽体離脱の正体
皆さんはピム・ヴァン・ロンメル博士をご存知だろうか?
心臓病専門医のピム・ヴァン・ロンメルは、20年以上にわたって、心停止を生き延びた患者の臨死体験(NDE)を研究してきた。医学雑誌The Lancetで発表された研究を含む、臨死体験と意識のテーマに関する科学的研究で最もよく知られている。2001年、彼と彼の仲間の研究者は、有名な医学雑誌The Lancetに近死体験に関する研究を発表。その後、彼は2007年にオランダのベストセラーEndless Consciousnessを執筆した。臨死体験の権威である。
ロメル博士によると、蘇生した人数の18%が臨死体験をしたことが判明し、臨死体験のデータを管理するロング博士の調査では、臨死体験者の46.5%が幽体離脱を経験しているという。
スイス連邦工科大学で、幽体離脱の実験を行ったところ、被験者は体脱体験のように体が浮き上がるように感じた。女性被験者は「体が浮き上がり、ひっくり返った。体が下にあるように感じた。」という。
ニューロプロテーゼセンターの設立ディレクターであり、ローザンヌエコール工科大学(EPFL)の認知ニューロプロテーゼのBertarelli Foundation Chairを務め、EPFLの認知神経科学研究所を指揮し、ジュネーブ大学病院の神経学部の神経学教授であるオーラフ・ブランケ博士は「体脱体験は脳のデータ処理のミスから起こる。脳にエラーが起こると全く別の場所に自分の存在を感じたり、体が2箇所同時に存在しているように感じる」と発言している。
脳の錯覚で幽体離脱と同じ感覚になることが示されたのである。
右脳の角回による幽体離脱
脳研究者の池谷裕二氏は、著書『単純な脳、複雑な「私」』の中で、右脳の角回を刺激することによって、幽体離脱を引き起こすことができると述べている。
実験で右脳の角回を刺激したところ、被験者はベッドに寝ている自分を上から見ることができたという。
実は、角回は夢を見る時に使われる部位であり、角回と刺激して見える光景は脳宙で起こっている幻覚なのである。
アイソレーション・タンクによる幽体離脱
1950年代にはアメリカの脳生理学者ジョン・C・リリーが「アイソレーション・タンク」という装置を作り、五感を遮断する実験を行った。アイソレーション・タンクは無重力状態で、宙に浮くような感覚になる。その状態で意識を働かせると、体と意識が分離する感覚を体験できる。人によっては、意識を動かして移動させることも可能だという。
仮想現実体験ゴーグルによる幽体離脱
2007年には、スウェーデンの科学者の研究チームが、仮想現実体験ゴーグルを用いて脳への近くシグナルを混乱させる実験を実施した結果、10人に1人の割合で幽体離脱の体験を誘導することに成功している。
様々な研究結果から、臨死体験は擬似的に起こすことが可能であることが分かった。
これらのことから「死後の世界と思われる現象は、脳が引き起こしてる」と考えるのが自然である。
参考文献
- The Lancet | The best science for better lives
- Jimo Borjigin, PhD | Molecular & Integrative Physiology | Michigan Medicine | University of Michigan
- The Possibility of G-Induced Loss of Consciousness (G-Loc) during Aerobatics in a Light Aircraft
- Pim van Lommel
- Prof. Dr. Olaf Blanke – CNP
- 超常現象 科学者達の挑戦
- 世界の謎と不思議の事件ファイル